2012年4月13日金曜日

Teach For Japanをたずねて


楽町東京交通会館。JR山手線有楽町駅の中央口改札を降りると目の前にあるこのビルは、東京都と三菱地所が共同出資して1965年に開館した、いわゆる複合商業施設の原点ともいえる歴史のある建物である。3月某日、ここに本部を置くTeach For Japan(TFJ)というNPOを訪問するため僕らCreatoのメンバーはこのビルに集まった。


TFJとは何か?最近新聞やニュースで取り上げられることも増えてきており、ご存知の方も多いかもしれない。

米国で学生に最も人気の就職先の一つである教育NPO「Teach For America(TFA)」。TFAは1990年に当時まだプリンストン大学の学生であったウェンディ・コップが立ち上げた教育NPOで、教育機会の不平等やその他教育問題を解決することをミッションとしている。ハーバード大学やMITなど有名大学出身の若者を教育問題の顕著な学校に教員として派遣するなどしてこれまでに300万人以上の子どもの教育に携わってきているという。



TFJはTFAのモデルを日本で活用し、教育課題の解決を目指すNPOで、2012年1月にTFAの23カ国目のパートナー組織として正式に加盟した。TFJを創設した松田悠介氏も、ハーバード教育大学院に留学中このTFAに出会ったのだという。

松田氏が立ち上げたTFJは創設間もないながらも、東京以外に関西、九州、そして東北に支部を持ち、運営スタッフの数はざっと100名以上になる。東京交通会館という由緒あるビルに本部を構えているということで、訪問前の僕らは緊張の色を隠せなかった。

今回TFJへはビデオ撮影を依頼するために訪れた。彼らの活動を僕らなりに映像に残し、できるだけ多くの方に知って頂きたいと思ったからである。お会いしたのは大隅文貴さんと阿久津純一さん。彼らは松田さんのビジョンに触発され、勤めていた会社を辞めてフルタイムでTFJの活動をしている。大隅さんは元外資系金融機関に勤めていた。阿久津さんも元外資系コンサル会社出身だ。二人とも、とにかく優秀である。

打合せが始まった。最初はそれぞれプレゼン資料を使って自分の団体の説明。こちらは即興だったが、向こうはきちんと練られている。すらすらと数字とロジックが出てくる。うんうん。なるほど。よくわかった。すごいね、本当に。完敗である…。



とはいえ、僕らも当初の目的を果たせねばならない。今回の趣旨を説明し、撮影のお願いをする。「私たちの活動をより広く知ってもらう事は重要です。ちょうどプロモーションビデオを作ろうと考えていましたので、是非宜しくお願いします。」と快く承諾頂いた。優秀なだけでなく懐の広い方々である。

撮影に向け話は進む。聞くにちょうど今、期間限定の学習支援を東京の複数拠点で行っているという。百聞は一見に如かず。まずは、近いうちに教育現場を見学することとなった。

***
3月某日。平日の夜。教育現場視察の日。TFJは通常の学習支援プログラムとは別に東日本大震災で被災した児童・生徒の学習フォローもしている。この復興支援プログラムでは現役大学生が教師となって、計10回前後の指導を行う。今回はその授業の現場にお邪魔させてもらった。場所は都内マンションの1階にある集会所でその授業は行われていた。普段はマンション住民のためのキッズルーム兼集会所というだけあってマンガがずらっと並んでいたが、マンションの所有物であり子どもたちは手にとって見てはいけないルールらしい。さすがに自分が読むわけにはいかない。じっと我慢。

さて、授業である。僕が到着したときには、既に1時間目の授業が始まっていた。最初に小学2年生のクラスをみる。先生は2人。ちょうどテストの最中で子どもたちは皆真剣だ。テストがおわって、1時間目終了。休み時間。子供たちは解き放たれたように皆元気だ。授業は18時~18時50分、10分のお休みを挟んでまた19時~19時50分まで授業を行う。

2時間目はとなりの部屋に移動。ここでは中学生の男子生徒2名、小学3年生の女の子3人組、小学4年生の男の子数名と女子中学生1名の計4つのクラスが一つの部屋で区画に分かれて同時に行われていた。

横では中学生の女の子を女性の先生が一対一で教えている。どんな授業内容かとそば耳を立ててみる。「EXILEなら誰が好き?」「将来なりたい職業はなにかな?」

「ん??これって授業?」と思ったが、実はこうした会話も授業の一環らしい。TFJでは、何気ない会話を通して生徒に授業の内容に興味を持ってもらうよう仕向ける。なるほど、確かにこの会話から発展してメビウスの輪について教えていた。勿論、こうした会話が成立するのも年齢の近い学生教師を派遣しているTFJならではである。女子中学生にとってみれば、先生である大学生はちょっと上のあこがれの先輩でもあるからだ。

こうした授業の進め方は一見学生教師の自由に任せているようだが、勿論そうではない。事前にかなり入念に準備されている。準備メモを見せてもらったが、ここで生徒がこういう反応をしたらどう返すか、今日の授業を通じてどんなことを気づかせてあげたいか、そうした事が事細かに書いてあるのだ。ちなみに彼女のメモでも「ここでEXILEについて聞く」と書いてあった。さすがである。

続いて小学5年生の男の子。「このやり方ならみんな分かるかな?」男子学生の先生が必死に分数の計算を教えている。算数は多くの小学生にとって躓きやすい科目だ。こうやって何度も分かりやすく教えるもらえる事は生徒にとってとても大切なことだろう、と思って後ろを見るとおいおい。一番後ろの男の子は既に集中力をなくしている。先生も途中で気がついた。「○○君、まずはちゃんと座ろう。」と姿勢を正すよう促す。TFJの学習プログラムでは子どもが守るべき「5つのルール」がある。そのルールの一つに「姿勢を正しく」と書いてあるのだが、なるほど。確かに姿勢を正すと集中力が戻った。これは素晴らしい。

19時50分。やっと授業が終わる。先生が一人一人の今日良かった点を褒めてあげている。みんなうれしそう。最後はみんなで挨拶して帰宅だ。

「じゃあね~。」一番最後にあの女子中学生が先生みんなに手を振って帰っていった。ふ~、これでやっと終わり。子どもたちを見送って後片付けをしてお役御免。みな先生から学生に戻る瞬間だ。ただ、「さぁ帰ろう。」というかと思えばそうではない。実はこの後が彼らTFJの真骨頂である。

「これから本部に戻ってリフレクションを行います。」大隅さんが説明をしてくれる。リフレクションとは何か?その日の授業について学生教師が振り返る場である。学生たちはそれぞれ途中のコンビニで遅い夕食を買って、有楽町の本部へ向かった。

時刻は既に21時半を過ぎている。学生たちが続々と戻ってきた。彼らは、戻ってくるなりおにぎりを口に頬ばり、休む間もなく何やら紙に書き始めた。リフレクションの開始である。まずは個人個人で自分のよかったこと、ダメだったことを振り返る。みな真剣な顔つきで。ときに宙を見上げ、うんうん唸る。そしてまたペンを走らせる。

その後スタッフから呼ばれ、個人面談が始まる。このスタッフはいわゆる過去のプログラム経験者でその日の授業について、一つ一つアドバイスを送る。ただ決して上から目線ではない。横に座って、「ここがよかったよ。」「○○君どんな感じだった?」と優しく声をかけながら、一緒に考えて行く。学生たちも自分の思いをどんどんしゃべっていく。授業を通して感じたこと、子どもたちのこと、話したくて仕方がない感じだ。とても楽しそうである。

最後は皆で円陣を組んで気合を入れる。次が10回目で今回のプログラムでは最後の授業とのことで、飲み会の話で盛り上がる。この瞬間はみな学生に戻って、笑顔になっている。うん、やっぱり彼らは学生だ(笑)




しかし、彼らのこのエネルギーは何なのだろうか?学生教師、運営スタッフ、そして多くのパートタイムで支える人たち。「もっと成長したい」この思いをみなが持っていることはわかる。しかし、自分が成長するためだけならば、何も子どもを相手にする必要はない。今なら他の選択肢もあるはずだ。しかし彼らはこれを選んだ。「世の中をよくしたい。」こうした気持ちもあるのだろう。ただ、それでここまで熱く真剣になれるのだろうか。正直、今回の見学だけではまだ本当のところは分からない。

「子どもには無限の可能性がある。」ある学生が話してくれた言葉である。確かに子どもたちには無限の可能性がある。しかし僕には、彼らにこそその「無限の可能性」があるように思えた。それほど、ここにいるみなが輝いてみえたのだ。

さて、それにしても映像である。僕らの目的は映像を通して、彼らの魅力を伝えることだ。う~ん。色々ありすぎる。ということで、今は楽しく思案している。ちょっと先になるかも知れないが、みなさま乞うご期待?!

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